お侍様 小劇場

    “夜の底はまるで深海の如くに(お侍 番外編 7)
 


深夜に聴くAMラジオは、どうしてまた、
DJの声もCMのトーンも、
妙に物寂しいそればかりなのだろか。
学生時代は自分だって、
定期試験の前なんぞ、一夜漬けの友として、
さんざんお世話になったのに。
珍しくも夜更かしをしていた久蔵へと
夜食を運んで行ったら聞こえたラジオ。
人気男性ユニットの新曲CMも、
リクエストのメールを読むDJの声も。
夜だからと押さえられたトーンなせいか、
それともどこか掠れて聞こえるせいか、
鄙びた駅の名を告げる、夜行列車のアナウンスよろしく、
どこか何となく、
侘しさが寂しさが胸を衝いて聞こえてしようがなくて。

 「?」
 「あ、いえ。」

どうしたのと案じる視線、
無言のまま、向けて来た次男坊へ、
何でもありませんよと苦笑をし。
今夜は冷えるからキリのいいところで切り上げなさいねと、
炒めた野菜をたっぷり載せたタンメンの器、
机の空いたところへそっと置きながらの常套句。
久蔵殿がああいうものを聴いていたというのも
何だかちょっぴり意外だったけれど。
何もかけずの無音のまんま、
夜の底に独りきりというのはもっと寂しいかも。

 “いやいや、寂しいも何も。”

眠くならぬように、それから時計の代わりにと、
せいぜいそんな扱いで聴いてたはずだのにね。
妙に感傷的になっちゃってまあと、
我ながらの苦笑が洩れたところで、
マナーモードにしてポケットに入れていた携帯が震えた。
あらら、やっとのお帰りかと、
引っ張り出してのぱかりと開けば。
メールが届いていて“今 駅だ”との短い一言。
ああ、これが昨年までだったなら、
取り急ぎガレージまで走ってって、
いそいそと車へ乗り込んでたよな。
駅までの道の途中で鉢合わせになるお迎えに、
幼子じゃあるまいに大仰なと、
いつも苦笑をなさった御主だったが、
だってしょうがないじゃないか。

 ―― 独りでいるのが少しでも早く終わるなら。

エンジンをかければ、
昼間つけたまんまだったFMラジオが勝手に鳴りだして、
それがまた、どこか侘しく聞こえて、
でも無音はもっと嫌だったから消せなくて。

 “こんなにも“寂しい”へ過敏だったかな。”

それとも、今の自分はそんなにも
腑抜けた男になってしまったのだろか。

 “………。”

夜寒の暗い道には違いないけど、
街灯もあるし、駅前だったら
商店街の明かりが舗道に沿って、結構長く連なってもいる。
そこから帰るのなら寂しいほうへと向かうことになるが、
迎えに行くのなら、その逆なのに。
道路を埋めてる車列を縁取る、
ヘッドライトやテイルランプも居並んで。
なかなか賑やかな情景の中に身を置いているのにね。
自分がいる車内だけ、
夜の底に ぽかり、隔離された水槽の中のようで。
周囲を行き交う他の車の走行音も、
素っ気なくもつれない、
遠い風籟のようにしか聞こえなくって。
そんな中、舗道から気づいての立ち止まり、
ちょっぴり眉を下げつつも、
視線を投げてくださる勘兵衛様を見つけては、
ほっとして車を寄せて“お帰りなさい”と笑顔を向けて。
なのに、御主はいつもいつも、
『何だ、泣きそうな顔をしおって』
人の顔をまじまじと見ては、そんな言いようをなさったもので。

 “……。”

あれれぇ? 昔の方が腑抜けだったんじゃないか?
リビングのソファーに腰を沈めて、
頬杖をついての双手で頬をくるむよにして う〜んと唸っていれば。
二階から とんとんとんと軽快な足音が降りて来て、
廊下からひょこり、こっちを覗く久蔵殿。

 「…。」
 「帰って来られましたか?」
 「…。(頷)」

ちょうど彼の部屋の窓からは、
駅から帰って来る人影が、結構遠いうちから望める。
試験勉強中で、集中していたはずのお人が、
それでも…夜道にその影を拾えた、残業帰りの愛しい家族。


  さあさ、それじゃあ二人でお迎えいたしましょ。
  夜更かしを叱られそうになったなら、
  それじゃあ寝かせてと甘えておやんなさい。
  久蔵殿がむ〜んって駄々をこねるお顔、
  勘兵衛様、実はお好きみたいですしvv
  え? そんなお顔してない? そうですかぁ?
  あ、ほらほら。もたもたしてたら上がって来られますよ。


    お帰りなさいませ、勘兵衛様♪





  〜Fine〜  08.1.13.


  *何とはなく見ていたCDの“カウントダウン”番組で、
   電王の主題歌のイマジン's Ver.が、何と4位に入っていました。
   うあ、そういや明日 放送あるんだ。
   いよいよの最終話を前に、
   ウラタロスがらみで何だか大きく動きそうだし、
   あうう〜〜〜と落ち着けなくて、こういうものを書いてました。
   今時の子って、AMの深夜放送とか聴くのかなぁ?


めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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